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受験のリアル読了 約5

文理選択で、本当に決めているもの

文理選択で決めているのは、得意科目の申告ではありません。18歳の自分が受験できる大学の範囲です。

16歳の秋に、その先の進路の幅が決まる

多くの高校で、文系・理系の希望調査は高1の秋から冬にかけて行われます。高2の時間割を組むためには、その時期でなければ間に合わないからです。生徒の側から見れば、16歳の秋に、進路の幅を決めることになります。

決め方の実態はどうでしょうか。当塾で相談を受けていて多いのは、「数学の点が取れないから文系」「国語と社会が苦手だから理系」という消去法です。これは責められることではありません。16歳が持っている判断材料は、たいてい直近の定期テストの点数だけです。

しかし、そこで決めている中身は、得意科目の申告ではありません。

戻れる方向と、戻れない方向がある

文理選択には、非対称性があります。どちらを選ぶかによって、あとから引き返せる度合いが違います。

変更の時期理系 → 文系文系 → 理系
高2のうち科目が減る方向なので、間に合うことが多い数学Ⅲ・Cと理科2科目が積み残しになる
高3からできる場合がある現役ではほぼ不可能
失うもの理科・数学に充てた演習時間受験できる学部そのもの

理系から文系への変更は、負担が減る方向なので、時期によっては間に合います。逆は、高2からの2年間で積むはずだった内容が丸ごと空くため、現役では現実的でないことが多い。

つまり、迷っている段階では、選択肢の広い側に置いておくほうが安全だということです。理系の時間割は負担が重く、それを軽く勧めるつもりはありません。ただし、決めきれないことの代償が片側だけ大きいことは、知ったうえで選んでください。

この分け方は、世界標準ではない

「文系・理系」はどの国にもある区分だと思われがちですが、そうではありません。むしろ、やめる方向に動いた国があります。

  • フランス:2019年の高校改革で、文学系(L)・経済社会系(ES)・科学系(S)という系列そのものを廃止しました。いまは共通科目に加えて、専門科目を複数選ぶ方式です。
  • 韓国:2015年改訂の教育課程にもとづき、2022学年度の大学修学能力試験から文科・理科の区分をなくしました。ただし主要大学が理系科目を指定したため実質的な区分は残り、2028学年度からの完全統合が予定されています。
  • イギリス:A レベルで3科目程度に絞るので、特化はむしろ日本より強い。ただし、生徒を「文系/理系」の2つの箱に入れる仕組みではありません。
  • アメリカ:専攻を決めるのは大学入学後が一般的で、高校段階で進路を二分する制度はありません。

では、なぜ日本にはあるのか。大学入試が、学部ごとに受験科目を指定しているからです。高校は、その科目に間に合わせるために高2から時間割を分ける必要がある。制度が先にあって、適性の話は後から来ています。

誤解のないように書くと、これは「日本の制度が遅れている」という話ではありません。学部ごとに科目を指定する入試には、入学時点の学力をそろえられるという利点があります。ただ、その副作用として、進路の幅を決める判断が16歳に前倒しされていることは、事実として知っておく価値があります。

学問の側には、境目がない

もう一つ知っておいたほうがよいことがあります。大学で学ぶ中身の側には、文系・理系の境目はありません。

  • 経済学は、学部でも微分積分・線形代数・統計を使います。大学院に進めば、扱う道具はほとんど数学です。
  • 心理学も社会学も、データを扱う以上は統計から逃げられません。
  • 言語学には、形式的な理論を扱う分野があります。
  • 医学は、生物・化学・物理・統計のどれも使います。

大学の側も動いています。早稲田大学政治経済学部は、2021年度の一般選抜から共通テストの数学Ⅰ・Aを必須にしました。看板といえる私立文系学部が、「文系だから数学は要らない」という前提を降ろした形です。

そして、そもそも東京大学の文科各類も、一橋大学も、二次試験に数学があります。 難関大の文系は、もともと数学から降りられません。「文系=数学をやらない」という等式は、志望する大学によって成り立たなくなる性質のものです。

「嫌い」と「点が取れない」を分ける

文理選択の相談で、当塾が最初に確かめるのはここです。

「数学が嫌いだ」と言う生徒に、何が嫌いなのかを聞いていくと、数学そのものではなく、いまの自分の点数が嫌いであることが大半です。順序が逆になっています。できないから嫌いになったのであって、嫌いだからできないのではない。

この区別が要るのは、前者なら状況を変えられるからです。定義に戻って考える訓練を受けていないだけ、というケースは非常に多い。単純に演習量が足りていないこともあります。それを「向いていない」と結論して進路を狭めるのは、判断材料としては弱すぎます。

逆に、数学を十分にやったうえで、それでも言葉や歴史のほうに関心が向くのであれば、それは立派な判断材料です。当塾はその選択を止めません。

決める前に、確かめてほしい3つのこと

  • 志望する学部で、入学後の4年間に何をするのかを調べたか。多くの大学がシラバスを公開しています。
  • いま「苦手」と言っている科目は、適切な教わり方をしたうえでの苦手か。
  • 迷いが残っているなら、選択肢の広い側に置いておく余地はあるか。

文理選択は、進路を決める作業ではありません。進路を決めるための時間を、どれだけ自分に残すかを決める作業です。

当塾の立場

当塾が教えるのは英語・数学・物理・化学の4科目です。数学を軸にしているので理系を勧める塾だと思われることがありますが、そうではありません。

数学から降りるという判断そのものを、否定するつもりはありません。ただし、降りたあとに戻る道が狭いことだけは、決める前に知っておいてほしいと考えています。文理選択の前後どちらの時期でも、相談だけでも承ります。

各国の制度は、フランスの2019年高校改革、韓国の2015年改訂教育課程にもとづく2022学年度以降の大学修学能力試験(2028学年度から完全統合の予定)、および各国の一般的な進学制度によります。早稲田大学政治経済学部の数学必須化は2021年度一般選抜から。いずれも2026年8月時点の記載であり、入試科目・制度は変更されることがあります。出願にあたっては、必ず各大学の募集要項をご確認ください。

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